横浜にあったロック喫茶『夢音(ムオン)』の話

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「プログレッシブ・ロック」。1967年にムーディー・ブルースが発表した『デイズ・オブ・フューチャー・パスト』が、「プログレッシブ・ロック」というジャンルを生み出した草分け的な存在と言われ、その後、1969年にキング・クリムゾンがその「プログレッシブ・ロック」というジャンルをこの世に知らしめる歴史的なアルバム『クリムゾン・キングの宮殿』で衝撃的なデビューを飾り、次いで1973年にピンク・フロイドの『狂気』が商業的にも大成功をおさめるようになると、ヨーロッパ各国からもユーロ・プログレッシブロックが台頭してきた。そんな1970年代半ば、1975年か76年頃のお話し。

夢音店内イメージ

※写真はイメージです



横浜の関内駅と桜木町駅の中間くらい(住所:中区相生町5-97 関内からだと当時馬車道にあった横浜東宝会館の先を左に曲がった先。桜木町からだと弁天橋を渡って川沿いから少し馬車道に向かったあたり)にあった小さなビルの2階。狭い階段を上がった先に「夢音(ムオン)」という名のプログレロック喫茶があった。喫茶といってもコーヒーだけでなく、お酒も出していたので昼間からやっていたバーみたいなもの。

当時の横浜関内周辺には、ロックを聴かせてくれる店は「夢音」だけでなく、福富町のビルの地下に「ムーティエ」、日の出町にも「グッピー」やその他にもロック喫茶があった。僕たちは最初のころ「ムーティエ」にも通っていた。
当時まだ本牧にあった米軍住宅や、横須賀にでかい空母が入ると、そこの兵隊らしき人達がその「ムーティエ」までやってきて、ピンクフロイドの「狂ったダイヤモンド」とかを聴きながら、頭をグルングルン回したり、濁った焦点の合わない眼でどこかを見つめていたりしていた。
僕たちがトイレに立つと、ふらふらヨタヨタと覚束ない足取りで後をついてきて「薬いらない?葉っぱいらない?」と呂律のまわらない英語で話しかけられるのが面倒くさかった。

そんなこともあって、僕たちは「夢音」の方に落ち着くようになった。
その頃の「夢音」は、カウンターと、いくつかのテーブル席と大きなスピーカーのある落ち着いた雰囲気の店内で、大音量のプログレッシブロックが静かなジャズに代わっても違和感のないような空間だった。
カウンタとテーブル席の間の棚にはコミック本がぎっしりと並んでいた。特に望月三起也の「ワイルド7」シリーズはここで随分と読んだ覚えがある。今でいう漫喫のはしりのようだった。

レコードプレーヤー店に入ってきた僕を見ると、店長のコーヘイさんが、僕がその時に気に入っていたアルバムを覚えていてくれて、迷わずレコード棚から取り出すと「A面?B面?」と聞いて、入り口近くにあったレコードプレーヤーにかけてくれた。
コーヘイさんが焼いてくれる絶品の「あたりめ」とバターピーナッツ。それにプログレッシブロックを肴にして飲むサントリー・ホワイトのボトルキープが千円くらいだったように記憶している。

通っているうちに、常連さん達とも仲良くなった。コケティッシュでエキゾチックな感じにソバージュがとても似合っていた「アケミちゃん」や、長髪の美男子「リンゴ」など、今でも憶えている。未だにPavlov’s Dogの”Julia”を聴くたびに「アケミちゃん」を思い出す。今頃どうしているんだろう?
名前は忘れてしまったが、山手のフェリス女学院の寮に住んでいた深窓の令嬢風な女子大生が独りで来ていたりもした。

カウンターと椅子当時は現在のようにネットで検索すれば大抵のことはわかるなんてことはなかったので、プログレッシブロックに限らず、音楽、特に洋楽に関しては雑誌やラジオや口コミからの情報に頼るしかなかった。
プログレッシブロックの場合は特に「ジャケ買い」に頼ることも多く、ジャケットのかっこよさに魅かれて買ったアルバムが大当たりだったりすると嬉しかったが外すことも多かった。
そんな意味でも「夢音」の存在はありがたかった。レコード屋で「これは!」と思ったバンド名とアルバム名を覚えてきて「夢音」でリクエストすればかけてくれる。知らない曲でも「今かかってるの何?」と聞けばいいし、その時に店内に流れているアルバムのジャケットは壁にディスプレイされていたので何がかかっているのか一目瞭然だった。
もちろん、常連さん達からの口コミや評判は大いに参考になった、「マスター!アケミちゃんの言ってたやつかけて!」と言えばすぐに聴くことができた。

「夢音」には、ピンク・フロイド、キング・クリムゾン、イエス、EL&P、ジェネシス等の大御所とか名盤を聴きに行くというよりも、何か新しい発見をしに行っていたように思う。
「あまり知られていないけど、実はこんなにいいアルバム知ってるぞ」みたいなものを求めて。
そして、ふと気がつくと、どんどん深みにはまってしまっていて「なんだか楽しくないなぁ。無理して難しいの聴いてるんじゃないか?俺」みたいになっている自分に気がつく。
そして、サーフィンやらディスコやら他の遊びや音楽にうつつを抜かすようになって、自然と「夢音」から足が遠のくようになってしまった。
それでも「夢音」で過ごした日々は、今でも忘れられない大切な思い出の一つだ。

今もプログレッシブ・ロックのアルバムを引っ張り出して聴くたびに、当時の「夢音」の雰囲気をありありと思い出せる。

当時、「夢音」でよく聴いていた思い出深いアルバムをいくつか列挙しておきます。

キャラバン登場 – If I Could Do It All Over Again I’d Do It All Over You/ キャラバン – Caravan
グレイとピンクの地 – In the Land of Grey and Pink/ キャラバン – Caravan
夜ごとに太る女のために – For Girls Who Grow Plump in the Night / キャラバン – Caravan
キャメル・ファースト・アルバム – Camel / キャメル – Camel
蜃気楼 – Mirage / キャメル – Camel
白雁 – The Snow Goose / キャメル – Camel
月夜のファンタジア – Moonmadness / キャメル – Camel
禁じられた掟 – Pampered Menial / パブロフス・ドッグ – Pavlov’s Dog
過ぎ去りし夏の幻影 – Sommerabend / ノヴァリス – Novalis
幻の映像 – Photos of Ghosts / プレミアータ・フォルネリア・マルコーニ – PFM
甦る世界 – The World Became The World / プレミアータ・フォルネリア・マルコーニ – PFM
鳥人王国 – Birds / トレース – Trace
ワンス・アゲイン – Once Again / バークレイ・ジェイムス・ハーヴェスト – Barclay James Harvest
妖精王 – Octoberon / バークレイ・ジェイムス・ハーヴェスト – Barclay James Harvest
哀愁の南十字星 – For Moments / セバスチャン・ハーディー – Sebastian Hardie
幻想の谷間 – Valley Gardens / ウォーリー – Wally
恐るべき静寂 – Tai Phong / タイ・フォン – Tai Phong
ゴー – GO / ツトム・ヤマシタ – Stomu Yamashta
ストラトスフィア(浪漫) – Stratosfear / タンジェリン・ドリーム – Tangerine Dream
999 / アフロディテス・チャイルド – Aphrodite’s Child
死の舞踏 – Dance Macabre / エスペラント – Esperanto
チューブラー・ベルズ – Tubular Bells / マイク・オールドフィールド / Mike Oldfield
フェローナとソローナの伝説 – Felona E Serona / レ・オルメ – Le Orme
ティルト – Tilt / アルティ・エ・メスティエリ – Arti & Mestieri
侍祭の旅 – Voyage of the Acolyte / スティーヴ・ハケット – Steve Hackett
異常行為 – Unorthodox Behaviour / ブランド・エックス – BRAND X

等々
追記:急に懐かしくなってネットで調べてみると、ディスコやらサーフィンやらにうつつを抜かすようになった僕たちが通わなくなった70年代終わりから80年代以降は、積極的にライブを開催し(ええ?あの店内で!?)、レーベルを立ち上げて、ノイズ系やら前衛的なのやらパンクなバンドやらを後押しして「MUON」としてやっていたようで、その後、地上げのために場所を野毛の方に移して2003年2月までは「MUON2」としてやっていたようだが、消息はよく分からず。とにかく僕たちが通っていたころとは、かなり様変わりしたようだ。

『横浜にあったロック喫茶『夢音(ムオン)』の話』へのコメント

  1. 名前:Yummy 投稿日:2017/09/11(月) 08:59:54 ID:4ac3405d9 返信

    急になつかしくなって検索したらこのブログにヒットしました。私は88年から3年くらい通っていたので、随分変わってからなのでしょうが、懐かしがっている方がいるのに感動して嬉しいです。コウヘイさんはどうしていらっしゃるんでしょうね。当時の写真があってひっぱりだしてきました。激しくノスタルジアです。とにかくありがとうございます。

    • 名前:諌花タカシ 投稿日:2017/09/11(月) 13:38:22 ID:938921379 返信

      コメントありがとうございます。
      私が夢音に通っていたのは開店間もない頃だったと思いますが、どこかですれ違っていたかもしれませんね。
      私もYummy様と夢音を通じてノスタルジックな思いを共有することができたような気がして良かったです。

  2. 名前:なおこ 投稿日:2017/09/17(日) 03:15:57 ID:b47818d1f 返信

    当時一緒に通っていた彼氏だったジャズ喫茶UFOのマスターが夢に出てきて思わず検索したらこちらに…すごく懐かしい青春時代です!コウヘイさんどうしてるかな 大学生だった私は ジャーマンロックをここで知りました。アメリカンロックならムーティエで騒ぎましたねw

    • 名前:諌花タカシ 投稿日:2017/09/17(日) 15:18:17 ID:dbece1f73 返信

      コメントありがとうございます。
      当時はブリティッシュ・プログレを経て、ドイツやイタリアをはじめとするユーロ・プログレが盛んになりつつある時代だったような気もします。
      なおこさんとは、もしかしたら夢音やムーティエの店内で同じ曲を同じ時間に聴いていたかもしれませんね。

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