
戦後、米軍に接収されていた横浜の本牧のベースキャンプが、1982年に日本に返還されるまでは、本牧の長いフェンスの向こうには、この曲に歌われるように本物のアメリカがあった。
左側(海側)がエリア・ワンと呼ばれる緑の芝生に白い洒落たアメリカンハウスが立ち並ぶ住宅地。右側(山側)のエリア・ツーには、ショッピング・センター(PX)や銀行、学校やガソリン・スタンド、映画館やボウリング場、ナイター照明付きの野球場やテニスコート、そして教会までが揃っており、そこにはアメリカのホームドラマに出てくるような小さなアメリカの町そのものがあった。
もちろん一般の日本人はオフリミット。

これは、まだ本牧にその「フェンスの向こうのアメリカ」があった頃の話だ。
ティナというのは呼び名でクリスティーナというのが正式な名前だった。
親父さんは本牧ベースの米軍人で、ティナ自身はアメリカ、フランス、中国、日本の血が混ざってると言っていたが、長い黒髪に黒い瞳の見た目は日本人とほとんど変わらない。当時、テレビCMでよく見かけたマスコットガールに似た、とてもかわいい子だった。
歳の頃は16か17だったと思う。べつに恋愛感情があったわけではなくただの友達。
その日はティナとティナを紹介してくれた幸香という女の子と俺の三人で波乗りにでも行こうという話になった。
絵にかいたような暑い夏の青空の下、友達から借りた銀メタの箱型のスカイラインに乗って湘南海岸まで走った。
母親が日本人だというティナは、片言よりは少しましな程度の日本語を話すのだが、ところどころになんだかおかしな言葉が出てくる。選ぶ単語が惜しいところで少々間違っていたりする。それでも言いたいことは解るから話していても面白い。
逆に日本語で話している中にカタカナ言葉が出てくると、そこはまるっきり英語の発音だ。ゲータレイド、ドゥービーブラザースetc… へ~!そうやって発音するのかぁ。
こちらが日本語を教え、ティナが英語を教えてくれる。
それもそのうちごっちゃになるから、お互いに中途半端なおかしな日英語?になって、車内はずっと笑い声が絶えなかった。