フェンスの向こうのアメリカ(vol.7)

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ゲートの外に出ると、すっかり夜の本牧の街。「さてどうしようか?」とゲート脇に立っていると、なんだか遠くの方から異様に太く大きなエンジン音が近づいてきた。

思わず振り向くと、こちらに向かってくるのは、白いファイヤーバード・トランザム。
いや、原型はファイヤーバードなんだろうが、車体が異様にヒップアップしている。それもそのはず、後輪に履いているのは、テレビのF1レースでしか見たことがない、超極太のスリックタイヤ。どうみたって、日本の公道を走って大丈夫な代物じゃないのは一目瞭然。「あぁ、あれもこのベースの奴が転がしてるんだろうな。本牧の街であんなの相手にシグナルレースやられたら、ちゃんと車検通した日本の車じゃ敵わないよなぁ」などとと思っていると、そのファイヤーバードが、まるで巨人の足踏みのようなノイズを轟かせながら、目の前までやってきて止まった。
「ドッ!ドドッ!ドドッ!」と、腹の底を揺さぶられるような極太のエキゾーストノートと、オイルの焼ける匂いに辺り一面が包まれる。話し声なんて何も聞こえやしない。
いったいどんなエンジン載っけてるんだ?!

※これはイメージですが、本物もこんなだった



その時、左側の運転席から金髪の若い男が顔を出した。若いっていうより、まだ幼さの残るような顔立ち。こいつ本当に免許持てる年齢なのかよ。
その金髪男が「ティナ!!!」と大声で叫んだ。
するとティナがニコニコしながら車に近寄っていき、耳を聾するノイズに負けまいと、怒鳴るようになにやら話している。俺と幸香はそんな様子を一歩ひきつつ眺めていた。
話し終えたティナが駆け寄ってくる。
「あの子達が一緒に遊ばないかって言ってるけど、どうする?」
と怒鳴った。怒鳴るように話さないと何も聞こえやしない。
「え!」と、少々たじろぐ俺。
「でも私、あの子達あんまり好きじゃないのよね。いつも変なことしようとするし。」
へ、変な事って?ティナの日本語だし、違う意味かもしれないけど、あんなこととかこんなことか?
「そ、そうかぁ。じゃぁ、また今度にしようか」
「うん、分かった。じゃぁ、そう言ってくるね!」
う~ん。根性無しな俺。
再びティナがファイヤーバードに駆け寄って叫ぶと、運転席の金髪男は俺等に向かってニコニコと笑って手を振りながら「バイッ!シーユー!」と大声を上げた。声もまだ幼かったが、いい奴だったかもしれない。
ファイヤーバードは、後輪を思い切りスピンさせて白煙を上げ、巨人の足音をより一層轟かせながら、タイヤの焦げた匂いを残して夜の本牧の街に消えていった。
もうだいぶ時間が遅くなったころ、「海も行ったし、今日はすっごく楽しかった!」と言うティナを、根岸の米軍住宅(エリアX)まで送っていくことにした。お母さんに門限を言い渡されてたのかな。
ゲートの前まで送っていくと、ちょうどそこにいた同じ年頃の女の子を見つけて駆け寄り、キャッキャッとはしゃいでいる。そして「一度家に帰ると出られないから」と言いながら、俺達と分かれて、その友達と一緒にまた夜の街に繰り出して行ってしまった。

そんなティナの疲れ知らずの元気に、お転婆な妹の御守りを無事に終えた後のような疲れがあったが、その足で当時よく通っていた本牧のディスコ「リンディ」に行って、幸香と一晩中踊り明かした。初めて入ったフェンスの向こうのアメリカの雰囲気を、少しでも忘れたくなかったのかもしれない。

—あとがき—
ティナはこの1年後くらいに、パパの転任でまたどこかの国の基地に飛んで行ってしまった。
1970年代半ば、今と違ってアメリカの文化が若者たちの憧れだった時代の話。
40年も前のことを記憶の細い糸を辿りつつ書くのはかなり骨が折れる。 しかもフェンスの向こうのアメリカといいつつ、肝心のフェンスの中での記憶があまり残っていないのが残念。
思い出そうとすると、ティナの屈託のない輝く笑顔ばかりが思い出される。
そんなティナも、今頃はビヤ樽ママになってるのかな。

自分が20歳前後の頃の、ある思い出深い一日のお話でした。
最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。

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